
高温室の温度分布
温かい空気は天井付近から送風しないでください。
高温室の温度分布
恒温恒湿室では、運転温度が外気温と近いので、あまり問題にならない温度分布も、高温室になると温度分布が極端に悪くなり、困っておられる現場を、かなり多くお見受けします。
高温室は、エージングや、乾燥目的で使用されますから、室内に棚が置かれている例が多く、この上段と、下段では、10℃以上の温度差が出ている例が、実に多く有ります。
これでは、下段の製品のエージングが実際には行われていない事になり、これに気が付かないと、製品の歩留まりの悪さに悩まれる事になります。
経験した中で一番酷い物は、天井吸込の天井吹出で、お部屋の壁の中央付近にセンサが有り、室内には隙間なく棚が並べられておりました。壁のセンサは、50℃でしたが、天井の温度を測定すると60℃有り、床は40℃以下と言う、同じ室内で、20℃以上の温度差が出ている高温室が有りました。お客様は、空調専門の業者が製作した高温室だからと、性能を信じており、室内はほぼ均一であろうと、実際の温度分布の測定もされておりませんでした。
何故この様な事が起きるのでしょうか? この答えは簡単で、熱せられた空気は体積が増えて、その分軽くなるからです。そんな事が、温度分布に影響する事は無いだろう。空気なんて、もともと軽い物だと思われていますから、温度で空気の重さなんてそんなに変わらないだろうと思われています。温度が変わると、空気の重さが変わる話をすると、ずいぶん大げさな話をするなと、笑われてしまいます。
しかし、この様な話をすると、皆様がなるほどと納得されます。熱気球は、加熱して体積が増えて、軽くなった空気で気球内が満たされるので、何人もの人を乗せて空に浮かびます。
最近の冷凍食品の陳列ケースには、蓋が有りません。マイナス温度迄冷やせば、空気はかなり重くなるので、陳列ケースの高くなったフチを冷たくて重くなった空気は超えられないので、蓋をしなくても、冷気は外に流れ出ないのです。
高温室の空調機は実に簡単で、内部にはヒーターと送風機しかありません。簡単なので、制御盤を含めて、ユニットとして販売もされている様で、これを天井に吊り下げているだけの高温室を良く見ます。
天井吊下型ですから、背中の方から空気を吸込み、加熱して前から吹出す構造です。吹出口に風向ガイドが有り、下に向けて吹き出してはいますが、プロペラファンですから、風速が弱く、加熱された空気はとても軽くなりますから床には届きません。まして室内に棚が有れば、熱気は天井面と棚の上だけを流れて戻って来るので、熱気は天井の方に停滞するだけになります。この方法では、何時まで経っても、床の温度が上がる事は有りません。
この様な構造の高温室では、天井と床の温度差が15℃以上も開いてしまうのです。
この分布の悪さに気が付かれると、天井にサーキュレータを取付して、何とか床まで熱気を届けようとする方法が採用されます。しかしこれでも、風の流れる場所の温度は上がりますが、風の届かない場所の温度は、何時までたっても上がりません。
そこで、壁掛けの首振り扇風機が取付けされていた例も有ります。あちこちの床に向けて、温風を送ろうとするものですが、これも苦肉の策で、大きな分布の改善にはなりません。
空調機を外付けしている例も有ります。構造が簡単なのと、設置場所を節約する意味を兼ねて、空調機を天井の上に乗せ、天井から吸込んで、反対の天井から下に向けて吹出している空調方式も良く見ます。これでは、天井に下げた空調機と全く同じですから、温度分布は良くなりません。
また、一般的な空調機と同じ考え方で高温室の脇に空調機を設置している例も有りますが、これも、壁から吸込で、天井の横が吹出になっている例がほとんどです。この様な空調方式では、絶対に温度分布は上がりません。

左の図は、良く見かける温度分布が極端に悪い高温室の例です。
この様に、棚が入ると、50℃に設定しても、50℃になるのはセンサ部分だけで、天井には軽くなった温度の高い温度の空気が流れて、設定より高くなります。
また、軽くなった温度の高い空気は床まで届きません。
冬季には、床が冷えて、床付近の温度が上がりません。
高温室を計画されている場合は、価格は安いのですが、天井から吊下げるタイプの空調機は避けて下さい。はっきり言って、温度分布を考慮したら使い物になりません。
どうしても価格的な面で、これしか無いと言われる場合は、この空調機を床に設置しますと、少しマシな温度分布になります。
人間は、足元から風が出ていると、非常に違和感が有るのですが、高温室の中で連続作業はしないでしょうから、温度分布を考慮すると、この方法がベストになります。但し、熱風が直接当たる場所に何かあると、そこだけ温度だけが高くなってしまう欠点が有ります。
この方法では、吹出口の前方は広く開放してください。
温かい空気はとても軽くなりますから、自然上昇します。韓国のオンドルは、床暖房ですが、送風機が無くても、お部屋全体を比較的均一に温めます。
高温室では、床を全面吹出にして、天井を全面吸込みにすれば、風が弱くても、空気は自然に上昇して、棚の隙間も抜けて行きますから、非常に高い温度分布が得られます。
しかし、この方法では、設置費が高額になります。そこで、実際には、高温室の隣に空調機を置いて、壁の出来るだけ高い所から吸込んで、壁の出来るだけ低い所から床に向けて熱風を送り出すと、床から温まりますので、床から熱気が自然上昇しますから、この方法では、非常に高い温度分布を得る事が出来ます。
棚を置く場合は、1番下の棚を高くして、足だけにします。その下の空間に熱風を送り込むと、床全体を温める事が出来ます。
但し、床に物を置くと、風はそこに当たり、そこだけの温度が上がり、裏側は温度が上がらなくなります。温度分布を高めるなら、高温室の床には物を置かない様にします。
細長いお部屋で、全体を40℃均一にしたいとのご要望で、お部屋の天井と床のコーナーに室内ダクトを設置して、温度分布を高めて空調している設置例も有ります。
天井のダクトから吸込み、床近くのダクトから、分散して床に温風を吹出す方法です。完成後に、各ポイントで温度を測定しましたが、40℃ ±2℃以内と言う結果を得ております。

左は、できるだけ天井に近い所の空気を吸込み、加熱して、できるだけ床に近い部分から、分散して温風を吹き出している高温室の写真です。
どの場所で測定しても40℃にしたいとの御希望で、お部屋の各ポイントの上下で測定しました。
センサ部分は、40℃/±0.1℃で制御されていましたが、細長くて、広いお部屋なので、やはり風が上手く回らないポイントの温度が上がり難く、細かく測定した結果は、38℃~41℃の幅でした。
ヒートショック試験で、温度を上げたり、下げたりする試験室の要望も有ります。冷たい空気は重いので、高温室の空調機を下吹出のまま低温用に使用すると、床ばかり冷たくなります。重くなった空気は、送風機程度の循環量では、天井まで届かないので、天井の温度は温かいままで、天井迄は冷やせません。
この様な場合は、低温運転と、高温運転で、風の向きを替えないと、移行速度が遅くなり、温度分布も上がりません。弊社は、風の向きを変えるエージング室の納入実績も有ります。
風の向きを変えるエージング室の一例


これは+5℃と+60℃を短時間で繰り返す、ヒートショック用のエージング室の写真です。
空調装置は、部屋の裏側に有り、この正面の写真の位置からでは見えていません。
右の写真は室内で、温度を下げる時には上から低温の空気を吹き出し、温度を上げる時は、下から熱風を吹出します。空調機の前には、何も障害物が有りませんので、風の周りが良く、非常に早く全体に温度移行して、設定温度到達後は、直ぐに高い温度分布を得ています。
この棚はお客様の支給品ですが、これをパイプや金網の棚に替えると、棚の中にも風が流れるので、さらに温度分布を高められます。