空調機の空気の循環回数
恒温恒湿室・環境試験室の空気の循環回数について解説します。
空調機の空気の循環回数
恒温恒湿室の循環回数
恒温恒湿室の空調では、室内の空気の循環回数は、性能に大きな影響が有ります。
常温常湿で運転される恒温恒湿室の循環回数は、空気調和の参考書によると、±1℃の仕様の場合は、1時間に30回とされております。
毎時30回は、お部屋の容積分の空気を、1時間に30回循環させるのですから、これは、実際にはかなりの風量になります。エアコンを利用した空調機では、吹出口は正面の1ヶ所だけですから、この吹出口の風速が、かなり早くなる事は、想像できると思います。
ちなみに、5M×5M×2.5M程度の恒温恒湿室を想定しますと、容積は、62.5㎥になり、理想とされる30回の空気量は、62.5×30回で、1875㎥/hになります。
このお部屋をエアコンを利用して空調すると、5馬力のエアコンを使用する事になります。送風機は0.75kW(1馬力)程度が内蔵されておりますから、送風量が2000㎥/h程度になり、このエアコンの風量は、このお部屋位の広さですと、丁度良い位の風量にはなります。
床置きのパッケージエアコンの最小サイズは、3.75kW(5馬力)ですから、この例よりも狭いお部屋でも、エアコンは5馬力を採用します。すると、風量はダンパーで絞れますが、冷却能力が大き過ぎて、バランスさせる加熱と加湿量が多くなり、消費電力が多くなります。
ちなみに、このお部屋を弊社の空調機で計画すると、送風機は同じ0.75kW(1馬力)ですが、冷凍機は呼称1.1kW(2馬力相当)で空調出来ます。また、必要なだけしか冷却除湿させないので、再加熱と加湿量も少なくなり、エアコン方式より極端に消費電力が少なくなります。
エアコンの吹出口は、正面の1ヶ所で、サイズ的には、70cm×15cm程度です。開口面積は、0.1125㎡程度のサイズしかありません。ここに2000㎥/hの空気を流すと、吹出口の風量は、0.555㎥/sになり、風速では、約5m/sにもなり、室内で紙が舞う試験室になります。
風は平均的には出ませんので、中心の強い所は、当然それ以上になります。強い風ですから、遠くに届きますので、吹出口が1ヶ所でも、全体の空調は可能です。
但し、1ヶ所の吹出で冷房すると、風の当たる場所は良く冷えますが、風の当たらない場所の温度は下がり難くなります。恒温恒湿室とすると、当然室内の温度分布が悪くなります。
弊社では、試験室の天井のコーナーを利用した室内ダクトを使用して、数カ所に分散して吹出させており、室内に極端に強い風を感じる場所は有りません。室内のダクト方式は、お部屋がその分狭くなりますが、熱ロスは全く有りません。設定の温湿度に到達した後は、風量を落として、循環回数を少なくしても、温度分布は高く保つことができます。
下の写真は、コーナーダクトの設置例です。
各吹出口には、風向調整のルーバーが有りますから、お部屋全体の風の流れを調整できます。
また、各吹出口の風量も調整して有り、風量を落としても、温度分布は低下しません。
風量調整が簡単に出来ないと、試験場所を衝立で囲う様な試験室になります。
恒温恒湿室の循環回数30回は、温度分布を下げない為には、必要最低限の循環回数です。
所が、実際にこの風量に設定した恒温恒湿室に入室して見ると、かなり強い風速を感じます。
お客様には、もっと低風速低騒音にならないのかと要求されますから、実際には機械的なダンパーで絞り、お客様の希望される風量に落としているのが実情です。これでは、音はうるさいし、温度の移行時間が遅くなり、室内の温度分布も悪くなってしまいます。
弊社では、空調機はあえて大き目の送風機を採用しており、移行時には最大風速で送風を行っています。お部屋の床や壁を早くその温度になじませる事で、短時間で高い温度分布が得られる様に工夫しております。温度の移行中に実験される事は、まず無いからです。
壁と床の温度を早くなじませて温度分布を高くすれば、その後は送風量を落としても、外気と大きな温度の差のない恒温恒湿室の場合は、そのまま高い温度分布を保ち続けます。
弊社の装置は、条件付近に到達後は、お客様の実験の内容により、室内の風速は制御盤内のボリウムで自由に変える事が出来ます。この機能は大変喜ばれております。
弊社では、ボリウムダンパーや、シヤッターは一切使用しておりません。せっかく送風機で得た送風エネルギーを、ダンパーで絞ってしまう行為は、エネルギーの無駄遣いです。
弊社の装置は、風量制御は標準装備で、風量は条件により自動可変させております。
弊社装置の精度が高く、極めて省エネなのは、これらの制御も影響しております。
環境試験室の循環回数
環境試験室は、運転可能な温湿度範囲が広いので、移行時間を短くして、温度分布を落とさない様にします。温度範囲にもよりますが、毎時60回以上の循環回数にしています。
恒温恒湿室の30回の循環回数の時でも強い風を感じますから、これを考えると、運転範囲の広い環境試験室の室内は、かなりの風速と騒音になる事は、想像がつくと思います。
実際、5℃~60℃の環境試験室でも、恒温恒湿室と同じ、23℃/50%の運転は出来ますが、この風量では室内の風速は早く、うるさいし、風は強いしで、とても恒温恒湿室と同じ環境にはなりません。特にこの標準状態の風量は、見落とされますのでご注意下さい。
また、5℃が得られる能力の冷凍機で、23℃の運転をすると、冷却が過剰になりますから、冷凍機を大小2体に分けるなど、工夫しないと、消費電力が大きくなってしまいます。
また、当然、運転範囲を広げると、設備費も高くなります。良くある見積依頼で、-30℃ ~ +80℃/10% ~ 95% と言う仕様が有ります。何にお使いになるのか聞きますと、どうせ試験室を設置するなら、運転可能な範囲は広い方が良いだろうと言う回答で、具体的な実験内容は決まっておりません。
温度は、マイナスの温度が有るか無いか、湿度は20%以下や、90%以上の要求が有るか無いかで、試験室の価格は大幅に変わります。運転可能範囲は、必要以上に欲張らない事も、コストダウンに重要な項目です。
実際に必要な循環回数
空気は、その温度で重量が大きく変わります。一般の方が考えている以上に替わります。
最近の冷凍食品の陳列棚には、ガラスの蓋が有りません。冷たい空気は重いので、高い周囲の囲いからは、外に出る事は有りません。熱気球は、軽く体積の大きくなった空気で膨らみ、人を乗せて空に浮き上がります。
この様に説明すると、温度による空気の重さの変化を理解して頂けます。
この様に、高温運転では、空気は軽くなりますので、循環回数が少ないと、熱せられて軽くなった空気は、天井に停滞します。循環回数を上げても、室内に棚等が有りますと、熱風は棚に当たって床まで届かず、天井と床では、大きな温度差が発生します。この様なエージングルームや乾燥室は、数多く見ております。
逆に低温のお部屋では、冷気は床に溜まります。この様な例から、温度が高くなる程、低くなる程、循環回数が必要になり、吹出す方向も重要になる事は、簡単にご理解いただけると思います。
一般的に、空調機は天井に近い壁から吹き出し、床に近い壁から回収するのが、一番多い空調方式です。高温で温度分布を高く保つには、逆に床吹出として天井回収にすると、風量が少なくても、極めて高い温度分布が得られます。韓国のオンドルと同じ理屈です。
軽くなった熱気は、風量が少なくても、棚の間を抜けて、自然に上昇して行くからです。
現場で良く見るのが、天井にヒーターと送風機のユニットが有り、後ろから空気を吸い込んで、前から斜め下に吹出す空調機が有ります。メーカーから、高温室用のユニットとして、制御盤とセットで宣伝販売されておりますから、良く見かけるのです。
この空調方法は天井ばかり熱くなり、床が温まらない最悪の例になります。風量を上げても、熱気は棚にぶつかるので、その隙間を抜けて、床までは絶対に届きません。
この様な装置をエージングに使用されているお客様は、床付近が温まらないので、皆さんが歩留まりの悪さに悩まれています。この現象は、空気の重さを考えたら当然の結果なのです。
この様な高温室用のユニットでも、床に設置しますと、温度分布は少し良くなります。
弊社の対策
この様に高温室の理想は床吹出です。では、ヒートショック試験の様に、高温も低温も、短時間で移行させて、温度分布も高めたい場合はどうするかです。
弊社では、運転条件により、上吹出と下吹出を運転温度で切り替えている試験室も有ります。
この写真は、ヒートサイクル試験室の実例です。
空調機は部屋の突き当りに有り、上下にグリルが見えています。左右には試験する製品を並べて置く棚が有ります。格子状の棚が理想ですが、この棚は、お客様が使用していた棚をそのまま流用した物です。
高温運転時には、下のグリルから熱風を吹き出し、低温運転時には上のグリルから冷風を吹出します。温度で変わる空気の重さを考慮しているので、短時間で温度を移行させても、高い温度分布か得られますから、お悩みの歩留まりの悪さが、簡単に解決された例です。
また、弊社の空調機は、自動可変風速が標準装備で、冷凍機の冷却除湿能力も、必要最小限に制御しており、再加熱量と、再加湿量を出来るだけ少なくする省エネ制御も標準装備です。
条件に合わせて、最適な送風量になり、条件に合わせて必要な最小限の冷房除湿能力で運転しますから、バランスさせるヒーターと加湿器の稼働率が低くなり、消費電力が極端に少なくなります。
加湿器は稼働率が低く、自動洗浄もしているので、故障も少ない装置になっております。
更に、環境試験室には、省エネモードのスイッチも標準装備されており、制御性は少し犠牲になりますが、消費電力の削減を最優先に考慮した運転も行えます。