環境試験室
アイテックスの環境試験室には、独自に開発した
DCS(dual coil system)方式を採用しております。
DCS(dual coil system)方式空調機の特徴
他社の環境試験室の例
低温試験室の霜取り
環境試験室で+18℃以下の低温運転を行う場合や、常温であっても低湿度の運転を行う場合は、冷却コイルの表面温度をマイナスの領域にまで下げる必要があります。
一般の冷蔵庫でも一日に数回は運転を停止して霜取を行う必要がありますが、環境試験室では常時入室者がある事を条件に設計しますから、常に外気を導入する必要があります。
特に外気湿度の高い夏季等では、空気中の水分が冷却コイルに霜となって付着し、短時間で霜が蓄積して凍結する現象が発生します。
凍結した霜は、やがて凍結して氷になるので、デフロストするのにも時間がかかり、このデフロストの間に、室内の温湿度は急上昇してしまいます。
室内に発熱する機器がある場合は、特に急激に上昇致します。
またデフロスト中は運転を停止する必要がありますから、当然換気も停止しております。
もしこの状態で環境保全の為に換気を継続して行えば、湿度の高い外気が冷たい室内の壁や什器に触れますから、表面に結露が発生して、室内はびしょ濡れの状態になります。
例えば+5~40℃で、湿度30~80%程度の運転範囲を希望して見積りを依頼しますと、仕様書には「+20℃以上にて調湿します」の一言が付け加えられる例がほとんどです。
これは+20℃以下で湿度を制御しようとすると、短時間で霜が蓄積してしまうので、一般的な空調方法ではかなり無理があるからです。
また20℃で40%以下の条件も、着霜する条件ですから、実際の連続運転には無理があります。
連続で運転が可能なのは20℃/45%程度迄になり、これ以下の温度・湿度では着霜するので、連続運転は出来ません。必ず何らかのデフロストが必要になります。
ノンデフロスト方式
上記のような問題を解決する為に、一部の業者はノンデフロスト方式を採用しております。
冷却コイルに霜が着くのは、冷却コイルの温度が低く、導入している外気と空調機を循環している室内の空気には湿気があるからです。
冷たい冷却コイルにこれらの循環空気が触れる前に、除湿機を使って空気をカラカラに乾燥させてしまえば、冷却コイルに霜は着きません。
専門的には冷却コイルを冷やしていき、表面で水滴が発生し始める温度を露点温度といいます。
空気の状態によって露点温度が変わり、湿った空気は露点が高く、乾燥した空気は露点が低いのです。
夏に冷蔵庫から冷たいビールを持ち出すと、すぐ表面に結露が発生しますが、これはビール瓶の表面温度が周囲の空気の露点温度より低いから発生するものです。
簡単に言うとビール瓶が濡れ始める温度がその空気の露点温度です。
冬にビール瓶が濡れないのは瓶より空気の露点温度の方が低いからです。
つまり除湿機を使用してこの冷却コイルの表面温度より循環している空気の露点温度の方を低くしてやれば、冷却コイルの着霜問題は簡単に解決します。
この方法が普及しないのは欠点もあるからです。一つは運転コストが非常に高いと言う事。
もう一つは、カラカラに乾燥させた低温の空気では、実際の環境条件とは異なりますので、一般的な冬季を想定した低温の実験では、実際と異なる結果が出てしまうからです。
またこの方法は湿度制御するには無理があり、低温低湿専用装置になります。
ノンデフロスト方式の除湿機はシリカゲル等の薬剤を使用して吸湿させ、これを電気ヒーターと送風機で乾燥させるものが主流です。
効率よく除湿させる為に乾燥剤は円筒形のローターになっています。
一方で吸湿し、反対側では熱風乾燥させて、これを回転して連続除湿させるものです。
大きな電力の乾燥ヒーターを使用しますから消費電力も大きくなり、この熱は回転しているローターから室内にも入ってしまいます。
これが最大の欠点で、この乾燥熱に打ち勝って低温を得る為には、一般の空調方式よりもはるかに大きな冷凍機の能力が必要になります。
設備電力や消費電力が非常に大きくなり、故障も起き易いので、運転コストが非常に高くなる事は、容易に想像がつきます。
低温低湿運転
除湿機を利用すれば低湿度の運転は非常に簡単にできますから、ほとんどの業者が低温低湿と言えばこの除湿方式を採用しております。これはデシカント方式と呼ばれています。
この場合もシリカゲルを熱風乾燥させていますからヒーターの消費電力が非常に大きく、ローターの熱が室内に入り込みますから冷凍機も大きくなります。
乾燥させたシリカゲルに吸湿させるのですからレスポンスがとても悪く、前日から運転しないと湿度が下がらない例もあり、なかなか条件が出せません。
これは消費電力の多い装置を、実験前から長時間運転しておく必要が有るのです。
デシカント方式で調湿する場合、レスポンスがとても悪いので精密な湿度制御ができません。
除湿機により相対湿度が下がり過ぎますから、精密な湿度制御する為には、加湿器を併用する必要があります。
湿度が高めの設定では、除湿してからどんどん加湿すると言う。ますます省エネとは程遠い制御になります。
また、加湿する事により空気の露点温度は上昇します。低温運転でも湿度が成り行きならば確かにノンデフロストです。
しかし低温で湿度の制御を行うには、加湿しますから、当然露点温度が上がります。
その結果、冷却コイルには着霜が発生しますから、ノンデフロスト装置のデフロストを行うという笑えない話が実際に発生します。
また、除湿機と加湿器のメーカーの点検修理費は、簡単なのに、驚くほど高額です。
実は、除湿機と加湿器は、環境試練室の最大のトラブルメーカーで、故障も多発します。
デシカント方式はランニングコストだけでなく、保守費も高額になってしまうのです。
弊社のDCS方式の特徴
DCSとはdual coil systemの略で、幅広い温湿度条件で運転する環境試験室を、最も少ない電力で運転するように開発した弊社独自の空調方式の社内名称です。
低温低湿度の運転に於いても霜取休止が無く、連続運転が可能な特徴を持っております。
低温運転や低湿運転では、空調機の冷却コイルの温度がマイナスの領域になりますから、必ず着霜が発生してやがて凍結します。
低温運転や低湿度運転では、着霜したら運転を停止させてデフロストする必要があります。
連続で運転する為には空調機を2台用意して、1台が霜取中はもう1台の空調機で運転する方法が考えられます。
この方式もデフロスト対策として使用されますが、使用中の空調機を停止させて別の空調機に切り替えますから、切替時には大きな温湿度の乱れが発生してしまいます。
消費電力は1台の空調機と変わりませんが、2台の空調機を製作しますから設置スペースがかなり大きくなります。価格も高くなり、メンテナンス費用も高くなるのが欠点です。
この方式を良く考えてみますと、凍結するのは冷却コイルだけでヒーターは凍りません。
送風機に着く霜も微量です。
空調機をまるまる2台製作する必要は無く、空調機の中に冷却コイルだけ2台設置して、電動ダンパーで切替えて使用すれば、霜取休止の無い空調機を作る事が可能になります。
これが弊社デュアル方式の基本です。
デュアル方式は、運転中の冷却コイルが凍結する前に待機中の冷却コイルに切り替え、休止させた冷却コイルを閉鎖して、ゆっくり霜を取って次回の運転に待機させる方式です。
切替時の冷媒の流れや電動ダンパーの制御を工夫しておりますので、切替時に温湿度もほとんど乱れません。弊社がもっとも得意とする低温低湿度用の空調方式です。
弊社のデュアル装置は必要な量だけしか冷却除湿しないシステムです。
設定された温湿度条件が常温常湿よりも低い場合には、除湿量を制御するだけで安定した低湿度が得られますから低湿度専用装置では、加湿器が全く不必要になるメリットがあります。
冷凍機をフル運転して希望する湿度まで下げ、その後は除湿する量だけを制御して、希望する温湿度で安定に保持させますから、デシカント方式と比較すると究極の省エネ装置になります。
また弊社のデュアル装置はかなり低温低湿でも連続運転が可能です。
大型の除湿機を使用した専用のドライルーム等にはかないませんが、10℃で20%や20℃で10%は数多くの納入実績があり、10℃で10%の納入実績も数台あります。
DCS運転チャート
運転開始から1時間毎に設定条件を変更して記録したチャートが次のチャートです。
設定条件は20℃/20%、20℃/10%、10℃/20%、10℃/10%の低温低湿の4条件で行い、その後10℃/10%で連続運転させた物です。オーバーシュートも無く、移行速度の速さ、安定度の高さが見られます。
低温低湿時に時々発生している湿度の乱れが、冷却コイルの切替・霜取時の乱れです。
切替時は、湿度のみ10分間+2%程度上昇していますが、温度はほとんど乱れていません。
本記録は、アイテックスのショールームの装置で行いました。
複数の冷却コイルを使用した空調方式
4~5℃の低温運転や、30~40%の低湿の運転条件を希望される場合は、冷却コイルの表面温度がマイナスの領域になりますので、着霜して連続運転ができません。
従来の方式では、運転を休止して霜取する方法が主流でしたが、この方法は休止中に室内の温湿度が急上昇してしまいますので、実際には低温低湿度の実験は出来ません。
弊社では複数の冷却コイルを使用して、運転中に温湿度を乱さずに霜取する方式を採用しております。
ダブルコイル方式
恒温恒湿室で運転出来る湿度の下限は、冷却コイルが凍結するので、湿度成り行きならば18℃低湿度なら、湿度20℃で45~50%程度です。
ダブルコイル方式は、湿度成り行きならば4℃程度、低湿度なら、20℃で40%程度の低湿度が得られる空調機です。
必要なだけの除湿制御をしており、夏季は加湿器不要で安定した低湿度が得られます。
過度に除湿する事が無いので、とても省エネな装置です。
ダブルコイル方式は、運転中に片方ずつ冷媒を停止して、着霜した冷却コイルの霜を落とし、低温あるいは低湿度での連続運転を可能としています。
幅広い湿度に対応させる為に、加湿器を組込んでいる例もあります。
トリプルコイル方式
ダブルコイル方式で得られる低湿度は、20℃で、35~40%です。30%の低湿度が必要な場合は、トリプルコイル方式になります。
幅広い湿度に対応させる為に、加湿器を組込んでいる例もあります。
5℃~40℃/30~70%の比較的幅広い運転条件に対応させる事も可能な空調機です。
3台ある冷却コイルを1台ずつ休ませる事で、安定した低温低湿度運転が可能になり、霜取中でも、20℃/30%程度の低湿度を保持させる事が出来ます。
高温運転では、この内の1台だけの冷却コイルを使用して、コイルの体積を減らし、高温運転でも、低湿度や多湿等の幅広い条件を、省エネな運転で可能とした装置です。
霜取中でも安定した低温低湿が得られますが、トリプルコイル方式では、霜取中の濡れた冷却コイルから水滴が蒸発して加湿してしまうので、これらの方法では、極端な低湿度を得る事は出来ません。
極端な低湿度や換気、あるいは熱負荷の有る状態、低温多湿運転等では着霜し易くなるので、この場合は、DCS方式(デュアルコイル方式)をお薦めしております。
複数の冷却コイルを使用したDCSの例
低温低湿度用の一般的な空調機では、2台の冷却コイルを電動ダンパーで切り替えて、着霜したコイルの霜取を、交互に電気ヒーターで行っております。
小さな実験設備ならこれでも良いのですが、換気や熱負荷が大きいと冷却能力が大きくなり、着霜も激しくなりますから、この場合は複数の冷却コイルを使用しています。
3台の冷却コイルを使用したデュアル方式では、運転中は2台の冷却コイルで冷やしており、1台ずつ電動ダンパーで定時的に順次閉鎖して、電気ヒーターで霜取をしています。
さらに強い冷却が必要な場合は、4台の冷却コイルを使用したデュアル方式も実績が有ります。
温度が下降する迄は、4台の冷却コイルで冷却し、到達後は、常時3台で冷却しております。
運転開始時以外は、常時1台が電気ヒーターで霜取を行っています。
18℃以下の低温運転あるいは20℃/40%以下での低湿度で連続運転する場合は、冷却コイルに着霜して、やがて凍結しますから、何らかの霜取りが必要になります。
低温や低湿度の運転では、運転を休止すると、その間に室内の温湿度が急上昇するので、実際の実験では、この様な装置は使い物になりません。
連続で低温低湿度運転をする為には、これらいずれかの霜取方法が必要になります。
終わりに
弊社DCS空調機の特徴をまとめますと、このようになります。
- 霜取りによる運転休止が無く、連続運転が可能です。
除湿器を使用した方式に比べると、低湿度への到達時間が早く、設備電力は1/4程度になり、消費電力は、さらに少なくなるので、かなり経済的です。 - 従来の方式に比べて設置スペースは、冷却コイルの台数分が大きくなるだけです。
メンテナンスも一方向だけですから、省スペースな装置です。 - 空調機の内部で冷却コイルだけ切り替えを行うので、全体の比熱は変わりません。
数々の工夫により切替時の乱れは極めて少なくなっております。
切替時の乱れは、悪くても1℃/2%程度で、10分程で収まります。 - 湿度制御は弊社独自のCSC方式です。
従来のPID方式と比べると、消費電力は確実に半分以下になりますから、究極の省エネ装置となります。
また必要なだけしか冷却除湿しないシステムですから、常温よりも低温低湿の運転条件の場合は、加湿器が無くても安定した湿度の制御が可能です。 - 本装置は、高温多湿の運転も可能です。
この条件でも必要以上に冷却除湿しないので、再加熱量と再加湿量はとても少なくなります。
加湿器の稼働率が低いのでスケールの蓄積によるトラブルも起きにくくなります。
加湿器のメンテナンス周期が長くなるので、とても経済的です。 - 除湿器を使用しないでも低温低湿で連続運転が可能となる最大のメリットは、設備電力の少なさと消費電力の少なさです。
実は除湿器は、停止している間にも、ローターが吸湿する事を防止する為に、ヒーターが定時的に入るので、運転していない時でも電力を消費しているのです。
このように弊社DCS方式を他の方式と比較していただければ、条件到達時間の速さ、温湿度の安定性、設備電力の少なさで驚かれるはずです。
弊社は川口工場にモデルルームを公開しております。
見学者の方は移行速度の速さ、温湿度の安定性の高さ、運転騒音の少なさに驚かれます。
電力計も設置されておりますから、消費電力も目視できます。
特にその省エネ性能は一目瞭然ですから、他社の装置をご使用中のお客様は、大変驚かれます。
このショールームの装置は公開しておりますので、ご希望があれば、何時でも見学可能です。
また、レンタル室として、ご利用頂いた例も有ります。