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技術資料

床断熱の必要性

ひと昔前の温恒湿室では、設置場所に空調が無い場合が多く、空調機の制御性も悪かったので、冬季は床に結露する例が良く有り、恒温恒湿室に床断熱は、必須の項目でした。
また、この時代の空調方式では、扉を開けると、温湿度が大きく乱れて、なかなか復帰しなかったので、入口に前室を取付している例も多く有りました。

恒温恒湿室は、建築物の内部に設置される事が多く、現在の建物は断熱性が高くなり、人の居る所は空調されている例も多くなりました。また、空調機の制御性も良くなりましたので、床の断熱は無くても、床に結露が発生する心配はほとんど無くなりました。
現在、建物の中に設置する標準の恒温恒湿室では、お客様のご希望が無い限り、床の断熱はしておりません。
また、空調機の制御性も良くなりましたから、人が出入りしてもほとんど温湿度は乱れず、乱れても直ぐに復帰しますから、通常の恒温恒湿室では、前室の必要性も無くなりました。

最近建築された断熱性が良い建物の中に恒温恒湿室を設置する場合は、特に断熱パネルで囲わずに、お部屋の中に空調機を置くだけで、恒温恒湿室としている例も有ります。

実は、冬季にかなり気温が下がる利根川に近い工場に、床断熱の無い恒温恒湿室の納入実績が有ります。
工場内と聞いておりましたが、床はコンクリートで、柱と屋根があるだけで、壁が無い、材料の置場の様な所に恒温恒湿室を納入しました。大きな工場でしたが、風通しがとても良く、夕方になると、現場に置いたバケツの水が凍ってしまう様な場所でした。
夕方に工事が完了して、心配しながらも、23℃/50%の条件で、一晩運転する事にしました。
翌朝訪問して驚いたのが、断熱パネル製の試験室を一晩中運転していたのに、室温は22℃迄しか上昇しておらず、扉を開けたら、床一面に大きなプールが出来ておりました。

温度が23℃にならないのは、比熱の大きな床がマイナスの温度域に迄冷え込んでおり、電気ヒーターの発熱量が不足でしたから、とりあえず、電気ヒーターを追加しました。
床のプールは、床が冷たいから、結露して水が溜まった為で、難しく言えば、床が露点温度以下になっていたからです。

露点温度を簡単に説明しますと、夏に冷蔵庫から、冷たいビール瓶を取出すと、あっと言う間に、瓶の表面が曇り、水滴が付きます。瓶の表面が冷えていなければ、曇も、結露も発生しません。この、曇るか、曇らないかの境の温度を、露点温度と呼んでおります。

23℃/50%の露点温度は、約12℃です。この23℃/50%条件の運転時に、床が12℃以下であれぱ、その床には必ず結露が発生します。

壁が断熱パネルの場合は、冷たくても、温かい空気が当たれば、直ぐに温度上昇しますが、バケツの中の水が凍る様な工場のコンクリート床の表面温度は、間違いなく0℃以下です。
電気ヒーターで温めた程度の熱量の空気で室内を攪拌しても、なかなか冷え込んだ床面の温度は上がりません。
また、温かい空気は軽くなるので、天井に溜まりやすく、結露した冷たい床には冷気が溜まりやすく、これも、なかなか床の表面温度が上がらない原因になります。

23℃/50%に設定して運転しても、冷え込んだコンクリート床の表面温度はなかなか上がりません。床が露点温度の12℃に上昇する迄は、室内を50%にしようと頑張って加湿しても、その多湿の空気は、冷たい床に触れると瞬時に結露して水になります。床の温度がなかなか上がらなかったので、どんどん結露して、一晩かけてプールを作ってしまったのです。

この様なお部屋でも、加湿を止めて、床の温度を早く高める為に、温度を30℃に設定して、床の温度が12℃になるまで加熱してから、23℃/50%に設定を変更して運転すると、結露は全く発生せず、ヒーターの消費電力も当初の設計通りに減少してきました。

ヒーターに大量の電力が必要だったのは、全く断熱の無い、比熱の大きなコンクリート床の表面の温度が上がって、なじむ迄の間だけで、コンクリートの床でも、温まってしまえば、それなりの断熱性は有る様です。
また、床が12℃に到達する迄の間は、加湿した蒸気は床で結露してしまうので、加湿しても意味は無く、全く無駄な加湿をしていた事になります。
床の温度が上がらないので、一晩かけて床にプールを作っていただけの結果でした。

床を先に温めた後は、全く問題無く、23℃/50%の運転が出来ました。
恒温恒湿室は、年間連続運転される例が多く、停止しなければ床は冷えません。冬季には、かなり冷え込む場所ですが、その後は連続運転なので、結露は全く発生しておりません。

この様な事を経験しながら、現在、弊社の恒温恒湿室の制御は、結露を防止する対策もされておりますから、お客様が希望されない限り、標準品の恒温恒湿室では、床の断熱は無しとしています。
但し、室内の温度分布が悪かったり、風の流れが悪くて、無風の場所が有ると、その場所が冷え込み、結露が発生します。

恒温恒湿室は、低風速低騒音が好まれるので、弊社の装置は、極端に低風速低騒音です。
但し、低風速にする場合は、室内の温度分布を高め、空気のよどみが無い様に工夫しないと、冬季は床に結露が発生していまいます。弊社の空調機は、これらの工夫もしております。

床に断熱の無い試験室の扉は、ボトムタイト方式ですから、床に突起物は有りません。完全にバリアフリーになりますから、とても喜ばれています。

ボトムタイト扉

恒温恒湿室でも、温湿度の範囲が広い物は、弊社では環境試験室と呼んでいます。
環境試験室は、幅広い温湿度条件で運転しますから、温湿度の移行時に、床が露点以下の条件になる場合が有り、露点温度以下なら、必ず結露が発生します。環境試験室では、床断熱は必須の項目です。
断熱された床があれば、たとえ温度の移行時に結露が発生しても、直ぐに床の表面温度が上がって来るので、結露は自然に消滅します。

断熱が無い床に結露させると、直ぐに水溜まりが出来ますが、この水は、拭き取らないと、なかなか蒸発しません。床が露点温度以上に上昇しないと、絶対に蒸発しないからです。
また、濡れた床の温度が上がり、蒸発を始めると、今度は気化熱の影響で温度が上がり難くなるので、なかなか乾かないのです。

床の断熱が必要かどうかは、運転条件で異なりますので、ご希望の運転温湿度と周囲の状況を連絡していただければ、床断熱が必要かどうか、判断してお知らせします。

また、恒温恒湿室の壁パネルの下の枠や、扉周りの枠は、標準品はアルミです。このアルミ材も、コの字型の材料ですから、室内外に大きな温度差があると、熱伝導により、アルミ部に結露が発生する事が有ります。
経験的に、20~23℃/50~65%のJIS規格の試験室で結露する事はほとんど有りません。
但し、温度がこれより少し低かったり、湿度が少し高い条件では、設置場所と季節に寄っては結露が発生します。
夏季の低温運転では、アルミ枠の外側に結露して、冬季の多湿運転では、アルミ枠の室内側に結露します。この様に、標準の恒温恒湿室の温湿度条件より少し外れる温湿度条件を希望される場合は、断熱性の有る樹脂枠を使用しております。

冷凍冷蔵庫の様に低温にするだけの試験室、エージングルームの様に高温にするだけで、湿度の制御を行わない試験室、低湿度だけを希望される試験室の場合は、室内の相対湿度が低いので、コンクリートの床を、そのまま使用しても結露しません。

但し、床の断熱をしない場合の扉の下部は、段差を無くしてバリアフリーとする為に、ズリゴムと呼ばれるゴムのスカートを引きずる形になります。
高温室の場合は何も問題ありませんが、低温室の場合は、この扉の下のスカート付近に、必ず結露が発生して、この付近だけいつも濡れている状態になります。この部分の結露は、簡単には防止出来ません。完全防止は、戸当たりが必要で、バリアフリーにはなりません。

また、床を断熱パネルとした場合、重量物を入れる場合には、床の耐荷重が問題になります。一般的には、平面荷重にする為に、床パネルの中にボードを封入しております。
点荷重になる場合や、室内で重量物を引きずる様な場合は、ステンレス板や、アルミの縞鋼板を床上に敷いて、ビス止めしております。

この様に補強したパネルの床の最大荷重は、1㎡当たり、700kg程度になります。
これらの詳細は、別途、技術資料の断熱パネルの仕様のページをご参照下さい。

断熱パネルの仕様
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