用語集（温度分布と湿度分布）

試験室に於いて、温度分布を高める事は重要な項目になります。
温度が一定なら、湿度の分布も必ず一定になります。
湿度の方だけ分布が悪いと言う事は、絶対に有りません。

空気は、温度により大きく重さが変わります。
空気の重さなんて大した影響は無いだろうと思われている方が多いのですが、空気は温めると軽くなります。
熱気球は温かい軽い空気で膨らみ、人を乗せて空に浮かびます。
スーパーの冷凍食品陳列の冷凍庫には、蓋が有りません。
冷たい空気は重いので、冷凍庫の仕切壁を超えられません。
冷気は床に零れ落ちて行かないのです。
こんなお話をすると、皆様が空気は温度で重さが変わる性質が有る事を納得されます。

製品に熱を加えるエージング試験をする為に、高温室を使用されている企業様は多く有りますが、製品の歩留まりの悪さに悩まれて相談される事がよく有ります。
この現場を見せて戴くと、ヒーターと送風機が天井に有り、吹出口も吸込口も天井で、温度センサは壁の中央付近、室内には棚が隙間なく置かれて製品が並べられております。
加熱されて温かくなった空気は軽いので、製品棚の上を舐めて通って、再び空調機に吸い込まれているだけなのです。
いくら風を強くしても、温かくて軽い空気は、製品の間を抜けて床まで到達しません。
この様な事は、空気の重さに着目すれば容易に判る事ですが、実際の現場ではこの例の様に、温度の分布が極めて悪い高温室を実によく見受けます。

メーカーからも、天吊りのヒーターファンユニットと制御盤が市販されており、これを購入して天井に取付て配線すれば、簡単に高温室らしき物が完成しますが、実はこの様な方式には大きな欠点が有ります。
専門メーカーの製品でも、壁の下方から吸込んで、天井から吹出す高温室が多く有ります。
少し改善されてもこの程度ですから、この形にしても軽い暖気は天井に停滞します。

センサがお部屋の中央で、検出温度が50℃で有っても、測定すると天井は60℃、床は30℃になっている高温室も数多く見ております。
これでは歩留まりが悪いのは当然です。
温かい空気は軽くなるので、床から加熱しますと、風が弱くても製品の間を通って天井に上ります。
韓国のオンドルと同じで、この方法は風が少なくても温度分布が高くなります。

高温室は空気を天井で回収して、加熱して床から吹出せば、風量が少なくても温度分布は向上します。
これは高温室の鉄則なのです。

こんな単純な鉄則を無視されて設計されている高温室は、実際にはかなり多く見受けます。
この様な事情を知らずに高温室を購入され、専門メーカー製だから温度分布は良いはずだと信じられております。
このように実測すると、お部屋の上下で30℃以上の温度差が出ている例は多く、お客様はそれには気が付かず、エージングの歩留まりの悪さに悩まれている例は実に多いのです。

高温室の吹出は床から、低温室の吹出は天井からが理想です。
高温室・低温室は、この吹出方向を守れば温度分布は向上します。
1台で高温と低温を繰返すヒートサイクル試験室は、温度によって吹出す方向を変えないと、温度分布は上がりません。

恒温恒湿室温度分布測定の一例

これはガンマ線を極めて正確に患部に集め、ピンポイントで照射する為の治療室の設備の略図です。
お部屋の温度が変化すると機器が伸縮して、照射する位置がずれるので、極めて高い精度の温度分布が要求されました。

日本試験機工業会JTM K07で規定される温度分府試験の方法は上の図の様に温度センサを配置する物です。
設置場所は、部屋の四隅の上下、壁と床、天井からそれぞれ50cm離れた8ヶ所と、部屋の中央の合計9ヶ所を測定して温度分布を確認します。

弊社装置の温度変動は0.1℃以内ですが、より正確を期するために同時に9点の温度を測定しております。
温度が一定であれば理論的に必ず湿度も一定しますから、相対湿度測定は代表で中央の1点だけとしており、合計10点を同時に記録しております。
下の図に温度分布の測定結果を示します。

恒温恒湿室温度分布の測定結果

左側に見えます太い線が、お部屋の四隅の上下と中央の9ヶ所の温度の記録です。
ご覧の様に、どの場所もすぐに均一の温度になり、左端の温度刻印の様に全て±0.2℃以内の分布に収まっております。
右側の青い線は、相対湿度の記録です。
こちらも±1%以内で記録されております。
湿度の単位は％RHですが、この湿度記録は設定ミスで、湿度も℃で表示されております。